自社株買い:ホントに株主還元策になってる?

株主還元策のひとつとして「自社株買い」をする企業が多く見受けられます。私がウォッチしている業界だけでも 2024年に「キヤノン」「キヤノンマーケティング」「リコー」、少し遡れば 2022年にブラザー工業」、2020年には富士フイルムなどがそれを行っています。しかし・・・私はこの「株主還元策としての自社株買い」に今一つ納得していません。皆さんはホントに「納得」していますか?経営者の皆さん、ホントに納得してますか?(笑)

「自社株買い 効果」で検索するといろいろなメリットと思しきことが列挙されてはいます、いずれも配当や製品・現物による直接の優待策でない為、イマイチ本当にそれがメリットなのか疑問が残ります。

ここで、私の中高大の先輩である溝口直人さんも非常にクリアな形で疑問を呈しておられるので、その論説を引用しておきます。

溝口直人氏 プロフィール

溝口 直人 / マネージングディレクター(DRCキャピタル(株)サイトから

1972年、三菱商事(株)に入社。技術関係取引に従事後、ハーバード・ビジネス・スクールに会社派遣留学。卒業後、主に豪州の石炭マーケティング・投資事業に従事、豪州における石炭採掘JV企業における役員を務める。1998年三菱商事の金属資源企画開発部長。1999年に三菱商事証券(株)を取締役副社長として立上げ、プライベートエクイティー・ファンドへの分散投資など機関投資家向け投資商品を企画・開発する。2000年より、三菱商事新機能事業グループの事業戦略室長(兼)CIOとして、金融・IT・コンシューマー・ヘルスケア等事業分野における新規事業の経営戦略や部門内情報システムを統括。2005年にDRCグループに参画。現在、(株)好日山荘、チャンルージャパン(株)取締役。

東京大学工学部卒業。ハーバード大学経営学修士(MBA)

【プラス価値の根拠なき、自社株買いの横行】

★今朝の日経新聞一面報道(コピー添付)では、日本企業の自社株買いの規模が最高レベルに達しているという・・・そして、日経はそれを「株主還元」の動きと肯定的に報道している。

◆ しかし、しかし、自社株買いが、本当に「株主へのプラス価値」を産むのか?、本当に経営改善になるのか?・・・必ずしもそうとは限らないのに、東証やペラペラした株屋さんの「要請」を受けて、単に「今、流行りだから」みたいに自社株買いする企業が多い。日本企業経営の全くの信念のなさには失望する。

・・・ また一般の市民株主も、だいたい自社株買い実施した企業の株値が、気分的に上昇することも多いので、真に「株主に価値をもたらすものか」と問い詰めることもない。
・・・日本中で、根拠乏しき「自社株買いゲーム」に踊っているのは嘆かわしい。

◆ 自社株買いが株主価値を高めるのは、ある一定の条件をクリアして初めて、そうなるかもしれないのだ。

【1】自社株が過少評価、かなり割安である確信のあること:

・ウオーレンバフェットが常々言う通り、自社株買いは、自社の株が過少評価されている局面でのみ、意味があり得るのだ。
・その企業の手元現金で、土地でも何でもいいが、何かを買う場合、もしも、その買うものの価格が価値に対して高すぎる場合、高すぎるものを買うのは、お金の無駄遣いで、株主の資産のムダ使いになるのは当然だろう。 ・・・それは自社株買いでも同じなのだ。手元資金が余っていて何か買いたい場合で、自社株が割高であれば、そんなものを買うのは止めて、むしろ、他社の株でかなり割安のものでも買うほうがまだ投資的に意味がある。

⇒ よって、自社株買いを発表する企業は、同時に、自社株が今、明らかに過小評価、割安であることを、データにより立論する責務がある。でないと、株主への価値創出ではなく、単なる時流にのったウケ狙いにしかならないのだ。

【2】その資金はなぜ今まで温存されていたのか?の立論:

・自社株買いするのに、借金までしてする企業は殆どない。
・日経のいう「資本効率改善」運動なのであれば、要は、手元に、価値を産みにくい余分な現預金資金が浮いているということになる。それなら、その現預金を使って、株主のためになることを何かするのは、意味はあり得る。

⇒ しかし、大問題は、なぜ今まで、そのように余分の資金を手元に置いていたのか? の説明、そして、何故、それを今放出することにしたのか?の合理的説明が要ることだろう。
・・・成長戦略が乏しいので、投資のテーマが乏しく、資金が浮き気味??・・・ならば、恥ずかしくても、まず成長戦略、投資テーマが少ないことを明確にすべきであろう。
・・・それなのに、手元に資金温存しているのは、かなり行き詰っても、資金だけは回るように、過剰な余裕を持っておきたいという、経営陣の自己保身から来るものである可能性もある。何故温存してきたのか、まずはその点の自己批判でもしない限り、突然放出する理由が不明になる。「東証に言われたから」が理由なら、そういうべきであろう。

【3】余裕資金の放出なら、なぜ配当に回さない?

・本当に余裕資金が浮いているとの判断に至ったのなら、自社株買いのような株価の妥当性の判断を要する難しいことをするのではなく、特配をすればいいことだ。普通配当の増配では持続できないにしろ、特配なら一回切りで済む。(註:大野はそれに加えて、そういう状況を生み出すことに貢献した従業員にも(一回限りで構わないので)還元を!と主張します)
・それを何故、自社株買いルートで資金放出するのか?
・・・東証とかがそれを推奨するからだろうが、自社株買いメリットの理屈があるとすると、発行済み株数(自社株除く)が減るから、計算上のEPS(一株当たり利益)が濃縮され、株価上昇に繋がりやすいということはある。しかし、そんなものは、軽薄な算数に過ぎない。

⇒ ⇒ ⇒ 総合すると、自社株買いする企業は、以下の点をしっかり立論し説明できないといけないのだ:
1)自社の株の割安の立論
2)なぜ、これまで手元資金をため込んでいたのか? そしてなぜ、いま急に放出するのか?
3)放出が特配でなく、自社株買いなのは、何故か?
しかし、これらの説明は一切ないのが通常だ。
・・・世間もそれでいいとするから、図に乗るのだ。
・・・この際、皆で自社株買いする企業には厳しいチェックを入れようではないか!!

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さて、改めて経営者の皆さん、これらの項目にどう答えますか?是非ご意見。異論・反論・オブジェクションをお待ちしております

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