ジャパン・インクジェット・テクノロジー・フェアが始動

インクジェットはまだ比較的新しい技術で、新しいプロセスや技術が定期的に出てくるので、最新のアイデアをキャッチアップして学ぶことができるイベントが有効です。

大野インクジェット・コンサルティングの大野彰得氏

ヨーロッパでは、大規模な展示会のほかに、通常、技術的、学術的なカンファレンスが数多く開催され、製品のデモンストレーションや販売の機会も完備しています。しかし、日本には多くのプリンターメーカーや部品メーカーがあるにもかかわらず、この点ではあまり充実しているとは言えません。そこで、日本インクジェット技術展は、日本の産業界のバランスを取り戻すことを目的に、東京で 2日間にわたって開催されました。会議と 40ほどのテーブルが用意された部屋では、ベンダーが自分の取り組んでいることをアピールすることができます。このイベントで重要だったのは、初日の夜に行われた大規模な懇親会です。インクジェットは、異なる分野や企業の人々が集まることで、最高の効果を発揮するコラボレーションビジネスだからです。

このイベントは、Ohno Inkjet Consultingの大野彰得氏が企画したもので、同氏は Printing and Manufacturing Journalの記事の多くを日本語で定期的に翻訳して発表していることをお伝えしておきます。大野氏は、IMIや ESMAなど、主にヨーロッパで開催されている会議やイベントからインスピレーションを受けたと述べ、次のように指摘しました。「IMIヨーロッパのイベントでは、テーブルトップでのスモールプレゼンテーションとネットワーキングを提供していました。ネットワーキングは、私にとって最も重要な価値なのです」。さらに、「積極的に海外に出ようとしない眠っている日本人を刺激したかった 」と述べました。

「来場者や出展者からのフィードバックにとても満足しており、特にネットワーキング・パーティーは大成功でした。インクジェット業界関係者 270人が集まり、十分に話し、十分にお酒を酌み交わせば、何らかの化学反応が起きると確信していました。そして、それが実現し、皆が楽しんでくれたのです。」

JITFでは、活発な議論が交わされ、賑わいを見せました

また、大野氏は、Drupaの主催者と更に協力するために、メッセ・デュッセルドルフを招待しました。彼はこう指摘します。「日本の小さな会社はDrupaで個別のブースを持つには小さすぎるので、日本のインクジェット技術のために、日本の小さな会社を何社か招待して一緒にブースを持つというようなことことができるかもしれません」。

メッセ・デュッセルドルフの Drupa担当ディレクターであるサビーネ・ゲルダーマン女史は、私にこう言いました。「日本は Drupaにおいて最も重要な出展国のひとつであり、それは 1951年の第1回開催以来、ずっと変わっていません。そして、Drupaの開幕まで 17ヶ月余り、既に 45カ国 900社の出展者が 10万平方メートルを予約し、大きなマイルストーンを達成したことを嬉しく思っており、日本はそのトップの国の一つです」。

また、「グラフィックアーツの用途は、パッケージング生産、ラベル、紙器、軟包装、段ボールへと広がっており、それはエコトレンドに大きく後押しされています。また、大判の重要性も増しています。産業用途では、インテリア装飾や家具装飾、ファッションやテキスタイル印刷などの分野が加わっています」。彼女はこう締めくくりました。「どんな素材にもプリントできる。だから、印刷はまだ非常に重要なのです」。

富士フイルムは、無粒子銀の導電性インクを開発しました

この点は、他の出展者の多くも同じことを言っていました。富士フイルムの統合ソリューションチームは、様々なタイプの機能性インクを紹介するために多くのサンプルを持ち込んでいました。その中には、無粒子タイプの銀導電性インクも含まれていました。導電性インクの多くは、ナノサイズの銀粒子を使用しており、粒子が凝集したり、インクタンクの底に落ちたりしないように、分散液で粒子を懸濁状態に保っています。また、粒子を分散させたとしても、粒子と粒子の間に多くの空隙があると、インクの導電性が損なわれてしまいます。

富士フイルムのインクジェット事業部オペレーションマネージャーの福井隆史氏は、こう説明します。「インクの中に分散剤を入れる必要がないんです。硬化後に基板上に形成されるのは、ほぼ純粋な銀の金属です」。また、噴射が非常に簡単だと言い、こう付け加えました。「当社の非粒子インクは、非常に薄く、非常に高い密度を持っています。そのため、銀の消費量が非常に少なく、導電性も非常に高いのです」。

このインクは、さまざまな基板に使用することができ、ハンダ樹脂、ガラス、ポリアミド、PETにサンプルを展示しています。このインクはまだ開発中ですが、富士フイルムは NDA付きのサンプルを顧客に提供し、テストしてもらうことが可能です。

また、FISのテーブルには、QRコードを画像に埋め込むことができ、読者がその上を通ると表示される不可視インクソリューションも展示されていました。

大阪に本社を置き、主にオフィスや産業用のインクジェットを開発しているゼネラルは、水性インクとマイクロ波装置でインクを硬化させ、フィルムに確実に付着させる薄膜印刷用のコーディング&マーキングソリューションを実演していました。デジタルシステムは、常に変化するシリアル番号に対応できるほか、製品追跡に使用されることが多くなっている様々なバーコードを追加できるという明らかな利点があります。

このシステムは、マイクロ波を使って水性インクを硬化させ、コーディングやマーキングのアプリケーションに使用します

もちろん、印字は黒インクのみで、解像度は 300x600dpi。現在、1インチ幅で最高 15mpm、1/2インチ幅で最高 30mpmの 2種類があり、いずれも 250Wのマイクロ波ユニットを使用します。ただし、インクの濃度が高いと硬化に時間がかかるため、インクの濃度で速度が決まります。しかし、主な利点は乾燥速度であり、インクが瞬時に硬化するため、アルコールを使用した溶剤系インクを使用した場合と比較して、明らかに向上しています。

同社では現在、6〜10mmの幅広タイプもテストしているとのことですが、これには最大 2000Wの強力なマイクロ波ユニットが必要です。100万円程度と高価ではありますが、幅が広くなれば魅力的な製品になるはずです。

マスターマインドは、クッキーにデザインを印刷する卓上型プリンターを展示していました。同社は、プリンターを駆動するためのメインボードと波形発生器を開発したのが主な役割。これを中心に、エプソンから購入した部品でプリンターを構築しました。ヘッドにはエプソンの F1440を採用しましたが、将来的にはエプソンの I1600ヘッドに移行する計画もあるとのことです。

マスターマインドの小沢啓介社長は、次のように説明すします。「今日はフードプリンターとして展示していますが、このプリンターを持ってきた最大の理由は、新しいメインボードを作ったからです。ですから、フードプリンターであっても、ソルベントプリンターであっても、また別の種類の小型フラットベッドインクジェットプリンターであってもかまいません。基本的な部分はそれほど変わりませんが、使うインクを選べますし、吸着テーブルや加熱装置などのちょっとした仕掛けを追加して、他の種類のインクを使うことも可能です。このプリンターを購入されるお客様の多くは、自分たちでインクを研究し、そのインクが機能することを確認するために、開発目的で購入されます」。

MakeJet社のこのプリンターは、修理する箇所をスキャンし、その破損した部分にコピーを印刷することができます

MakeJet社は、興味深い提案をするプリンターを数多く開発しています。一般的に印刷機は一カ所にとどまり、私たちは印刷機に基材を持ち込むのが普通です。しかし、メイクジェットのコンセプトは、必要な場所に持ち運べるプリンターで、床材や壁材の表面傷の補修に使えるようにすることです。基本は四角いフレームで、その中を左右上下に動く走査型キャリッジにプリントヘッドを搭載しています。同社は、プリントヘッドだけのバージョンと、プリントユニットだけでなくスキャナも搭載したバージョンの 2種類を展示しました。フローリングなど、傷んでいない部分のパターンをスキャンし、傷んだ部分の上にプリントするというものです。

プリントユニットには、レックスマーク(註:船井電機)のサーマルインクジェットプリントヘッドを採用しています。MakeJetの CEOである田口哲也氏は、こう指摘します。「カートリッジを変えれば、用途を変えることができます。食品用のインクを使ってクッキーを印刷したり、フローリングの補修に別のインクを使ったりできるわけです」。フローリングには、MakeJetは水性顔料インクを使用しています。田口氏はこう語ります。「アンダーコートとトップコートは我々が開発しました。私たちはコーティングのスペシャリストなんです」。

MakeJetのサンプルは非常に興味深いものでした。非常にリアルな奥行きのあるテクスチャーがいくつも表示されましたが、これはグラフィックが表面に平らに乗っている状態です。シミュレーションは非常にリアルで、まるで 3Dオブジェクトのようでした。

プリンターは左右に持ち手がついていて、壁に立てかけて、傷ついた壁の上に印刷することもできるほど軽量です。プリンター全体はバッテリーで駆動し、価格は 30万円程度です。

さらに、より広い範囲をカバーする第 3のモデルも展示しました。これは、コンパクトな印刷ユニットとレールを組み合わせたもので、印刷ユニットがレールに沿って移動し、必要な面積をカバーすることができます。

ドイツのクロノス社は、インクジェット用の白色水性インクを製造するための 9900ホワイトディスパージョンを展示するテーブルを設けました。同社は、より持続可能なソリューションへの要求もあり、インクジェット印刷の需要が伸びていると考えており、日本市場への参入を期待しています。

クロノス社は、TiO2顔料の粒子を製造していますが、その粒子の表面をさらに処理することで、より安定した分散状態を実現する技術を開発しました。これにより、インクメーカーが白色インクを製造する際に、より安定したベースを提供することができる。テキスタイル、パッケージ、装飾など、さまざまな市場に適しているとのことです。

アドビもテーブルを設け、今年の初めに詳しく取り上げた APPEの最新バージョンについて主に議論しました。Adobeは、PostScriptと PDFの両方を開発した、プロフェッショナルプリント業界の偉大なパイオニアの一社です。しかし、同社は膨大なコンシューマー向けソフトウェアビジネスも成長させており、おそらくその結果として、プロフェッショナルプリント業界との関わりを強める時期もあれば、弱める時期もあるようです。他のいくつかのベンダーは、今回のイベントでアドビに会えてよかった、アドビの存在によって業界はより恩恵を受けたと述べていました。アドビのシニア OEMプロジェクトマネージャーである増田茂氏は、「アドビとしては、特にカラーマネージメントなど、商業印刷とは異なるニーズを持つ産業印刷市場についてもっと知りたいと考えていました」と語りました。

ミヤコシと東洋インキは、東洋インキ(トーヨーカラー)のインクを使用したミヤコシのフレキシブルフィルムインクジェット印刷機「MJP30AXF」のサンプルを展示しました。この印刷機については、すでに以前の記事で取り上げており、来年にはまたアップデートをする予定です。しかし、展示されたサンプルは、アナログと見分けがつかないほど素晴らしいものだったことは言うまでもありません。

リコーのGelartプリントヘッドTypeB

今回の展示会では、いくつかのプリントヘッドベンダーもブースを構えていました。リコーの新バルブジェットプリントヘッド「Gelart」はすでに紹介したとおりです。同社はメタルサイドを含むサンプルも多数展示していました。コニカミノルタは、先週取り上げた KM800プリントヘッドと、以前 GISのドライブエレクトロニクスと一緒に取り上げた KM1024のアナログバージョンを展示していました。エプソンも、以前にも紹介したことのあるプリントヘッドを多数展示していました。

コンファレンスプログラム

メイン会場では、出展者のテーブルトップブースの他に、3つのトラックに分かれて、インク、キュアリング、インテグレーションなど様々なトピックのカンファレンスが行われましたが、ほとんどが日本語で行われたため、英語で行われたごく一部のトピックのみを取り上げます。

まず、インクメーカー Sitech社のマネージングディレクターである Jason Wu氏が、次のように述べました。「このカンファレンスの大きさと規模に感動しています」。Sitechは2013年に設立され、上海に工場はあるものの、台湾に拠点を置いています。呉氏は、UV硬化型インクの代表的な成分について説明し、次のように述べました。「最も重要な成分は、安定した顔料スラリーです。ある種の顔料スラリーは、ある種の光開始剤には安定だが、別のものには安定でない可能性がある。ある種の顔料スラリーは、ある種の光開始剤では安定だが、別のものでは安定しないかもしれない。一定期間、粒子径と分布を見る必要があります」。

また、水性ラテックスインキについては、必要な成分や、水の蒸発速度が速いため、ノズル内でインキが乾燥するのを防ぐのが難しいという話もありました。興味深いことに彼は、”我々は以前からラベルやパッケージの分野で、パートナーのためにシングルパスラテックスインクジェットに取り組んできた。”と付け加えた。シテック社は、DLPやSLAプロセスを用いたアディティブ・マニュファクチャリング用の樹脂も製造しています。

GISのビジネス開発ディレクター、デビー・ソープ(Debbie Thorp)氏

GISのビジネス・ディベロップメント・ディレクターであるデビー・ソープ女史は、イスラエルの 3Dプリンタ企業であるナノ・ディメンション社による買収後の同社について説明し、その後、産業用印刷市場の動向について概説しました。ナノ・ディメンション社は、プリント基板を自由な形状で積層造形できる「ドラゴンフライ」で、長年 GISの顧客でした。

GISは、グラフィックスと産業用印刷の分野で既存の顧客ベースにサービスを提供し続け、ナノ・ディメンション社の投資を受けて来年には 30%拡大する予定であると述べました。また、GISは、ナノ・ディメンジョンズ・グループの他の技術、特にディープラーニング人工知能に関する技術へのアクセスからも利益を得ることができます。ソープ女史は、「ディープラーニング AIは、グループ内の他のすべての会社の機器に組み込まれることになります」と述べています。

Thorpはまた、インクジェットの採用に関して、いくつかの市場セグメントの傾向について語りました。このうち、ラベルとパッケージングについては、インクジェットがトナーよりも急速に成長しているとし、インクジェットはまだ広い市場において小さな割合に過ぎないが、ラベルプリンターでインクジェットに注目する企業が増えていると述べました。また、「私の予想では、Drupaではより多くのインクジェット軟包装機を見ることができ、それがこの市場をより活性化させるだろう」と述べました。

また、消費者はパッケージともっと関わりたい、商品を開封する体験を楽しみたいと考えていることを指摘し、次のように述べました。「企業は今、パッケージングが単なるコストではなく、収益源になり得ることを認識しており、その多くがデジタル印刷によって推進されています」。

Thorp氏は、印刷品質を向上させるためにソフトウェアを使用することができ、ほとんどの大型印刷機では、すでに問題を修正するためにインラインシステムを使用していると結論付け、次のように付け加えました。「将来は、閉ループの自動化システムである 」と。

Quantica社のNovajet 2.0プリントヘッドは、来年後半には出荷できるようになるはずです

Quanticaの CTOであるラモン・ボレル氏は、同社の進捗状況について説明しました。同社の技術の背後にある基本的な原理については、すでに説明したとおりです。基本的に、Quanticaは、通常 300mPas程度の非常に高い粘性の液体を噴射できる NovaJetというプリントヘッドを開発しました。同社はこれを利用して、複数の材料を一緒にプリントできる 3Dプリンター「NovaJet C7」を開発し、歯科業界の大手サプライヤーと協力して、歯科用途に適したこのプリンターのバージョンを作っているところです。

Quabticaは、新しい用途に取り組むために、他の提携にも前向きで、最近では、ドイツのフラウンホーファー研究所と協力して、リアルな外観で患者の寿命まで使える人工眼球の開発を始めています。Quanticaとそのコア技術はまだ開発段階ですが、ボレル氏によれば、2023年末までには商業運用を開始する予定だとのことです。NovaJet 2.0のプリントヘッドは 2023年の夏までに完成する予定で、Formnext 2023で稼働しているところを見せる予定だそうです。興味深いことに、同氏は、Quanticaの 2021年の売上は400万ユーロだが、2026年には7500万ユーロに増加する見込みであることを指摘しました。

ネットワーキングパーティでは、エプソンの碓井稔会長が乾杯の音頭をとりました

どうしても、私が日本語を話せないこともあり、会場にいる全員を取材することはできませんでした。また、グローバルグラフィックスのように、すでに今年中に取材を予定している企業もあれば、来年以降に取材する企業もあります。また、他の来場者やベンダーの方々からも、そのような印象を受けました。もちろん、このようなイベントを開催する際の腕の見せどころは、ベンダーを適切に組み合わせ、互いに補完し合えるほど類似していながら、この市場の奥深さを示すのに十分なほど異なる企業を見つけ出すことです。

また、大野氏は、製品展示や各社の能力をアピールすること以上に、このイベントにはネットワーキングの場が必要であることを理解していました。産業用印刷物の市場は、さまざまな分野の人々が集まって多面的なプロジェクトを行うパートナーシップの場であり、JITFのようなイベントの真価は、多様な人々が集まり、自分たちが何に関心があるのかを自分で考えるための空間と時間を提供することです。それが、閉会後も多くの人が足を止めてくれた理由だと思います。

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