展示会報告 Heimtextil 2018(2)フランクフルト1月9~12日:壁紙

今回はメインの会場(というかデジタルプリント機器が集められたHall4.0以外の会場)の中で見かけたデジタルをご紹介します。

これは英国の有力壁紙メーカーのひとつ ANSTEY のブースです。質感をお伝え出来ないのが残念ですが、一般にヨーロッパの壁紙メーカーの製品は高級感があり、またエンボスなどが付いているのもあり、これをどうやってインクジェットで攻略できるのか、途方に暮れそうになります。

なお、前回の(1)で書きましたが、日本語で習慣的に壁紙と書いてしまっていますが、ヨーロッパでは基材が殆ど不織布になっており「紙」はなくなりつつあります。業界では英語の Wallcovering という言い方が通っていますが、適当な日本語が見当たらないので、便宜上「壁紙」で書き進めます。壁装材もなんか違和感あるしな~(笑)

現状は、ロータリースクリーン或いはグラビアで印刷されており、上の写真にある「OLBRICHI(ドイツ)」・「SPG(オランダ)」・「EMERSON&RENWICK(イギリス)」がその設備メーカーとしては有名どころで、いずれもメイン会場にブースを持っています。

これはオランダの壁紙製造工場の紹介ビデオです。オランダ語なので喋りはスルーして映像だけ見て頂ければと思いますが、ロータリースクリーン印刷機で連続プリントされる様子がわかると思います。オランダなので上記のSPG製の設備ではないいでしょうか?また、最後に1.2m幅のプリントを真ん中でスリットして約60cm幅 x 2本のロールにする様子も見えます。

なお日本の壁紙工業会が業界の研修資料として、壁紙の製造工程をパワーポイントで詳しく解説したものがあります。
PDF版はこちらからダウンロードできます。
またもう少し学術的・専門的ですが、ロータリースクリーンによる壁紙製造方法や、壁紙の現状と課題についての論文も挙げておきます。日本語です、ご心配なく(笑)
ロータリースクリーン印刷による壁紙の製法
壁紙の現状と課題

上記の壁紙製造設備メーカー3社のうち、オランダのSPGは、テキスタイル向けシングルパスインクジェット機(商品名 PIKE)を既に市場投入しており、これを壁紙プリント向けに改造したプロトタイプを発表しています。上の動画はITMA2015で発表されたテキスタイル向けのPIKEですが、壁紙向けはメディアの幅がこれより狭い1.2mでよく、またストレッチ布対応の粘着ベルトも不要なので、構造はもっとシンプルなものと想像されます。

また、SPGはシングルパスの他にスキャンタイプのワイドフォーマット機(商品名 JAVELIN)を持っていますが、この3.2m幅機を発表しています。壁紙ではなく、カーテンや寝装具などのホームテキスタイルには3.2m幅が必須といわれるのに対応したものです。

ドイツの OLRICH や英国の EMERSON&RENWICK などは SPG とは頃なり、インクジェットのプリントエンジン部分は外部と協力しそれを壁紙用メディア搬送系に組み込んで設備化するというアプローチをとっています。

プリントエンジンとは例えばこういうものです。これは英国ケンブリッジにある Industrial Inkjet 社の製品ですが、あくまでイメージで、これを OLBRICH や EMERSON&RENWICK が採用しようとしているという訳ではありません。というのは、先のオランダの壁紙工場の動画にもあったように、ヨーロッパのこの業界は1.2m幅でプリントして、それを半分にスリットするというのが常識になっており、この動画にあるような 56cm 幅では受け入れられないのです。

一般論ですが、どの業界でも既存の方式で生産を行っているメーカーは、インクジェットを取り込む際に、「現在できていることと同じことが出来ないと俄かには受け容れない」という傾向にあります。プリント品質しかり、速度(生産性)しかり、メディアも共通でないとダメ、そしてインク価格もしかり…版が要らなくなるという多大なメリットを享受したいという思いはありながら、失うものがあってはならないというスタンス。

現在インクジェットのインテグレーター達は鋭意、こういう既存の設備メーカーやその先の壁紙製造業者が要望するような 1.2m 幅のユニットほか要求されるポイントを改善している筈で、いずれ時間の問題でなんらかの形が実現するものと想像しています。一方で、こういうインテグレーター達は、既存の設備メーカーに拘らない顧客も並行して開拓しつつあり、違う枝に花が咲くかもしれません。

例えば XEIKON のロール紙向け電子写真プリンターは壁紙に特化して下の動画のような用途に製品を投入しています。

動画でお分かりのように、これは最初から 60cm幅で、1.2mをスリットしていません。こういう市場は既に存在しており、かつ既にデジタルであり、インクジェットがこれに対してメリットの訴求に成功すれば、ドアは開きやすいと考えられます。こういう動きは、既存方式に拘っている業者からはあまり見えていません。ある日気が付けば、土俵がシフトした!ということになるのかもしれません。ならないかもしれません(笑)インクジェット屋の私としては、ゲームチェンジャー側の肩を持ちたいところです。

さて、これとは別に「インクジェットの壁紙に HP のラテックスインク機がかなり普及している」という話をよく聞きます。その話と、1.2m 幅のプリントエンジンが出来ないと受け容れられない(=普及しない)という話はどう整合するのでしょうか?

この項が随分長くなってしまいましたので、その話は次回(3)にて考察することに致します。

【続く】

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