ITMA2019 Barcelona:速報(4)WTiN Europen Digital Textile Conference

ITMAの会期中の 6月 24日、WTIN主催の Europen Digital Textile Conferenceが開催されました。この中のパネルディスカッションには私もパネリストの一人として登壇しました。事前に配布された質問と、私なりの答えを書いておきます。実際には会場からも質問を受けたので、下記が全て俎上に上ったわけではありません。

1. Please introduce yourself and your company, and briefly describe your role in the company
問:まず自己紹介・会社紹介・仕事内容紹介をお願いします。

答:大野インクジェットコンサルティング代表の大野です。元コニカミノルタで執行役インクジェット事業部長を拝命していました。現在は独立してインクジェット業界へのコンサルティング、特に日本と海外を結びつけることをミッションとして活動しています。

あ、ちなみにカミさんの名前はヨーコっていいます。そう、ヨーコ・オノなんです。私の名前を忘れたらジョン・レノンを思い出してください(爆)・・・定番のツカミ(笑)

2. What’s the most interesting thing you’ve seen so far at ITMA?
問:ここまでで ITMAで見たものの中で、一番興味深いと思ったものは?

答:1.まず、8年前にもこのバルセロナの ITMAに出展者として参加しましたが、そこからのデジタルプリントの発展ぶりが凄いと思いました。完全に市民権を得たと感じます。

2.また、そこへの参入者に、伝統的な繊維業界以外のプレーヤーが数多くいることです。例えば HPや EFI、EPSONや私の前職のコニカミノルタもそうです。そういうプレーヤーが、伝統的な繊維業界以外の知見を持ち込んでいることは注目に値すると思います。

3.製品でいえば東伸工業のスクリーンとインクジェットのハイブリッド機が興味深いです。インクジェットのスキャンが律速になっていません。あと、NEEHAH-COLDENHOVEの顔料インク向け転写紙には注目しています。

3. Since we have good regional representation here, please tell us what are the main developments right now in your home markets:

Kerry: USA
Filipe: Brazil
Aki: Japan and E Asia
Mutlu: Turkey – and also eastern Europe

問:パネリストがうまく各地域に分散していますが、貴方の地域ではデジタルテキスタイルがどういう状況か教えてください。

答:東アジアで2大経済大国は日本と中国なわけですが、その状況は全く異なります。まず日本は、GDP比でいえばデジタル化はパーセントでも絶対量でも格段に低いです。一部のイノベーティブな人達が頑張ってはいますが。一方中国はパーセントでも絶対量でも格段に多いです。海外からの受注に加えて、そもそも中国国内の内需で、プリント柄のテキスタイル製品の需要が多いことも要因として考えられます。ただ、米国との貿易戦争が長引けば、周辺諸国への移転を加速するかもしれません。

4. Let’s look at the on-demand market. This is, by definition, a digital market and we’ve seen huge growth since Spoonflower first blazed the trail. Can that growth continue, and are there particular geographical markets with emerging potential?
問:オンデマンド市場について、すなわちデジタルプリント市場ですが、スプーンフラワーが大きな成長を遂げました。この成長は続くでしょうか?また特定の地域で大きなポテンシャルがあるでしょうか?

答:布へのプリントで衣服ばかりではなく、ホームテキスタイルや、不織布へのプリントによる壁紙などを含め、インテリア全体がデジタルプリントの対象となっていく・・・そういう予兆があるので、範囲を拡大しながら成長は続くでしょう。日本に関しては残念ながら、それ以前の状況のように見えます。規制や既得権益なども絡んでいるかもしれません。

5. What about on-demand in a B2B context? As well as fast fashion, we’ve heard some examples in the USA of digital print being married with sewing as part of a slick outsourced fulfilment operation. Is there any evidence of this business model taking off?
問:B2Bのオンデマンドに関してはどうでしょうか?ファストファッションと並んで、米国でデジタルプリントが縫製と結びついて、シームレスな外注のフルフィルメントサービス(在庫切れを無くす管理業務を外注すること)の一部となっていると聞き及びます。こういうことが離陸する兆候はありますか?

答:日本では残念ながら・・・

6. Should we see the ambitions of companies like Amazon as a threat to the established industry?
問:アマゾンのような企業の野望は既存産業の破壊への脅威ととらえるべきでしょうか?

答:こういう流れは止められないと思います。規制に守られた既存産業の無駄な部分の淘汰が進むなら悪いことではないと考えます。但し、最近指摘されているように、新たな独占を生むと弊害が出てくることも明らかです。核国政府や税務当局などが規制案策定を急いでいますが、分割も含めて一定の規制はあるべきと考えます。

7. Single pass is always a topic of hot debate and we’ve heard of some sales this week. What has been the impact of single-pass printing over the past 8 years and how do you assess its future?
問:シングルパス機はずっと熱い議論のテーマでしたし、今週また何台か売れたというニュースも入ってきています。(MSが発表して以来)過去8年間のシングルパス機のインパクトはどうだったのでしょう?そして今後は?

答:ここまでの累計設置は MS、SPGそしてコニカミノルタ合わせて30台強と推計されており、ショールーム機を除けばまあ30台とみて大外れは無いでしょう。ミラノ開催の ITMAで私は「シングルパス機を30台設置すれば(一定の前提条件での稼働率で)デジタル化比率は1%アップする」という計算を披露しました。そういう意味では、8年もかかってシングルパス機が貢献したのは1%のデジタル化アップに過ぎなかったことになります。

ここで満を持して EFI/REGGIANIが BOLTを投入、既に4台が売れたとの発表がありましたが、これが刺激となって停滞しているように見えるシングルパス機が再び動き出せばと期待しています。

一方で、スキャン機も MSの Mini LaRioや ALEPHの LaForte600のように 1,000平米/時クラスのものが登場してきました。このあたりが現実的な落しどころという気もしています。

8. Everyone is interested in pigment inks, which have been one of the gaps in the capabilities of high-speed digital printing. From what you have seen and heard at ITMA, what are the prospects for a quality solution that is fully self-contained, without pre- and post-treatment.
問:顔料インクは皆関心を持っているのですが、これまでのところ高速のデジタルプリントではそこが空白になっています。ITMAで前後処理の不要な高画質の提案がありましたか?

答:NEEHAH-COLDENHOVEの顔料インク用転写紙は注目しています。天然繊維向けと伝わっていますが、ナイロンやレーヨンなどにも有効とのこと。まだ海山わからないところですが、謳い文句通りだとすると、既存の昇華転写をやっている業者が、追加の設備投資無しに業容を拡大できることになり、大きなインパクトがあると期待されます。

9. In the traditional retail supply chain, it’s hard to escape the cost comparison between digital and analogue, however hard we try to push the unique benefits of digital, such as rapid response and sustainability. How do you assess the likely limits of digital’s capacity to replace screen printing?
問:既存のテキスタイルのサプライチェーンにおいては、デジタルとアナログのコスト比較から逃れることは至難ですが、クイックレスポンスやサステイナビリティなどのデジタルの利点を訴えてはいます。スクリーンをデジタルが置き換える限界はどのあたりにあると思いますか?

答:ここは勘違いしてはいけないところです。伝統的な捺染業者は所謂「commission printer:賃加工業者」です。ここで捺染業者が貰っている加工賃は長い歴史の中で相場ができています。従ってインク価格を下げるという強い圧力がかかり、プリンタメーカーやインクメーカーは儲からなくなる。

しかしながら、デジタルが導入されると、発注側はぎりぎりまで発注のタイミングを遅らせることで、在庫廃棄リスクや機会損失リスクを軽減できるわけです。これを賃加工業者に還元してあげないといけないんです。(インク)コストがスクリーンには敵わない・・・という安易な議論は考え直す必要があります。

一方、DTGや昇華転写周辺のビジネスでは様相が違います。こういう業種は、たとえば1ドルで仕入れたTシャツのボティにプリントをして15ドルで売るわけです。インクのコストはその利幅の中で極めてマージナルなものです。賃加工業者の薄利と全く異なります。スポーツアパレルも同様です。このあたりを混同しないようにしたいものです。

10. What are you most disappointed that you haven’t seen at ITMA?
問:1.の質問とは逆に、今回の ITMAに出展されていなかったものでなにががっかりでしたか?

答:DTMT:Digital Textile Micro Factoryです。HEIMTEXTILEでも、TEXPROCESSでも、FESPAでもその提案がありました。ITMAでも3号館の一部に JUKIのミシンや ZUNDのカッターが出展されていたので、プリントとの境界あたりにそれがコンセプト展示されるのかなと期待していました。実は HPがお膝元のバルセロナなので、そういうこともやるのかなと密かに期待していました(笑) 次回に期待しましょう(笑)

【会場からの質問】
問:最近、インクのクローズ化の動きがありますが、どう思いますか?(REGGIANIを買収した EFI、MSを買収した DOVERの動きを指していると思われます)

答:私は前職コニカミノルタで Nassengerを担当していた当時は、当然クローズドシステム支持でした。クローズドというとなにかネガティブに聞こえ、オープンというとポジティブに聞こえますが、オープンの場合、なにか問題が起こった時の責任の所在が曖昧になりがちです。それではお客様が困るでしょう?

また、デジタルのプリンターを開発するには莫大な開発費がかかります。開発要員の人件費のみならず、パテントの調査や維持など、普段はあまり議論にならないコストがかかっているのです。これを回収するためにはインクにマージンを載せるしかありません。インクの開発費用も当然乗せる必要があります。

ところが、プリンターの開発費を背負っていないインク専業メーカーは、インクの原価に、インクの開発費用だけを載せたマージンで価格設定するので、低価格な設定となりがちです。ここにオープン対クローズドのせめぎ合いが起こり、クローズド側はプロテクトに走るわけです。

しかし、今、中立の立場になってみると、クローズドサイドが常に最良のインクを開発できていたのか?インク専業メーカー群の知恵の総和の方が、専業で有るがゆえに優っていてよりユーザーニーズを満たすインクを開発できる可能性も感じています。

大事なことは、このビジネスに参加する各ユニットが、皆それぞれ妥当な利益配分を得るということかと思います。インクメーカーも、まともなプリンタが無ければ無意味なインクを開発することになります。プリンタメーカーが、プリンタの開発を継続するモチベーションが続くように、インク専業メーカーも利益還元に配慮することが必要ではないかと考える次第です。

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