ウクライナ情勢:ヨーロッパの友人たちとのディスカッション

9月 30日の定期ウェビナーで、私が関係している欧州の産業用インクジェットプリント業界の旧友達に、ZOOMで集まってもらって特別企画を立て、それぞれの国でロシアによるウクライナ侵攻がどのように受け止められているのか、今後どうなるのか・・・についてディスカッションというか、インタビューをしました。そのメモです。

画像 プロフィール
Sergey Belokurov(セルゲイ・ベロクーロフ):ロシア人・モスクワ近郊在住
ロシアの大判プリンターメーカー「Big Printer」勤務。かつて存在した、世界で初めて LED-UVランプを採用したと称するノヴォ・シビリスクの大判プリンターメーカー「SUN LLC」に大野がヘッドを供給して以来の付き合い。MEGA INKのディストリビューターだったことで下記の Andrejとも縁がある。
Andrej Keblusek(アンドレイ・ケブルーセク):チェコ人・プラハ在住
かつて存在した独立系インクメーカー「MEGA INK」の創業者。その後、同社はサカタインクスの傘下に入ることになり、サカタインクス・チェコ工場のマネージャーとなる。現在は引退して別の事業を起こしている。
Thomas Poetz(トーマス・ぺッツ):ドイツ人・南ドイツ在住
このメンバーの中では大野とは一番長い付き合い。2003年にリスボンで開催された産業用インクジェットのコンファレンスで「デジタル化・ネットワーク化・インクジェットによってテキスタイルプリントの将来はこうなる」というプレゼンを行い・・・それから 19年経った今、彼の予測した通りの状況になっている。大野が「師と仰ぐ」存在。
Enn Kerner(エン・ケルナー):エストニア人・首都タリン在住
底辺の印刷工(活版の活字拾い)の息子として生まれたが、旧ソ連時代にモスクワの科学アカデミーで学ぶ機会を得て大学卒の資格を得たことでロシアには一定の恩義を感じてはいる。一方で、ソ連崩壊時にエストニアが独立を果たした折には、検閲を受けない独立系の新聞を発行した。柔道・空手をたしなみ大いなる親日家。把瑠都とも交友がある。

大野:旧友の皆さん、今日は集まってくれてありがとう!日本でもウクライナ情勢は連日報道されているんだけど、やはり遠く離れた地域のことなので、今一つ現実感・切迫感が無い。これが台湾が他国から侵略されたというようなことなら他人ごとではないんだけれど・・・ということで、大野の旧友で、欧州在住の貴兄たちに声をかけて、今の事態が周辺各国でとう受け止めらているのかを訊いてみたいと思う。今日はロシア人のセルゲイも参加してくれているが、間違ってもロシア人を全て悪者扱いして批判する場ではないことは押さえておきたい。いいよね?

【セルゲイ(ロシア人・モスクワ)】

大野:セルゲイ、今日は参加してくれて有難う。今のモスクワの情勢はどう?
セルゲイ:今日の午後3時からプーチンがウクライナの4州を併合すると宣言するというので、その準備で結構バタバタしているよ

大野:うん、赤の広場にイベント用の舞台が設置されつつあるという報道は見たよ。そもそもこんな外国とのオンライン会議に参加して、あんたは大丈夫なのか?
セル:大丈夫だ。罪に問われるのは「ロシア軍の作戦に関して否定的なことを言う」という場合だけで、それさえ押さえておけば大丈夫

大野:あんたは部分動員令とかいうものの対象ではないのか?
セル:自分は 40歳を超えているので動員対象ではないので大丈夫だ。

大野:あの部分動員令で結構ロシア国内が動揺していると、西側では報道されている。状況はどうなのか?
セル:確かに周辺諸国に脱出する人たちはいる、それで渋滞が起こっているとも聞く。まあ、でもモスクワはそういう周辺諸国の国境やウクライナからは 1,000kmも離れているので、さほどの切迫感は無い。

大野:ダゲスタン共和国っていうイスラム系の地域で「なぜスラブの大義なんてものに俺たちが巻き込まれるんだ?」と騒ぎになっているよね?知ってる?
セル:国営放送では報道されていないが、西側メディアやテレグラムで情報は入っている。が、モスクワにはあまり影響はない。

大野:海外メディアは見ることができるのか?
セル:普通に見ることが出来る。Facebookと Instagramは VPNを使う必要があるが、BBCなどは今までと変わらない。ロシア離れようと国境が渋滞しているということも知っている

大野:西側諸国は大規模な経済制裁を課している。有名な自動車メーカーや、ファストフードチェーンや、諸々の企業が撤退した。この影響はどうなのか?
セル:確かにそれは目に見えて変わった。が、ロシアはクリミアの併合で西側の制裁を受けて以来、食料などの基本的物資は自国調達の比率を増やしてきた。そこはあまり問題として顕在化していない。確かに自動車などは価格が高騰し、もう誰も買えないしスペアパーツも手に入らない。しかし食糧や衣類などの基礎的な物品は何の問題も無く供給されているので特に問題はない。スターバックスのコーヒーが飲めなくなっても社会不安は起こらない。

大野:とはいえ、多くの西側諸企業が雇用していた人たちは失職した訳だろう?それって数十人の話ではなく数千・数万人の話だろう?そういうのが社会不安を生まないというのは考え難いんだが?一昔前なら、そういう不安・不満が革命を引き起こしたと思う。そういう兆候はないのか?
セル:ロシアの警察は強力だから・・・

大野:それって北朝鮮みたいな世界だな・・・あそこは監視社会で、反政府的な発言をすると有無を言わさず、家族全員がとんでもなく非人道的な収容所に振り込まれるらしい。セルゲイ、いずれにせよ貴君がタフな状況の中でこのディスカッションに参加してくれたことに感謝する!有難う!

【アンドレイ(チェコ人・プラハ)】

大野:アンドレイ、チョコからは今の事態がどう見えている?
アンドレイ:自分はチェコ国籍だが、父親はスロバキア人で、母親はロシア人だ。自分はロシア人とチェコスロヴァキア人のハーフなんだよ。そんな、ロシア人の血が半分混じった自分の視点でも、今の状況はあり得ないと思う。

大野:セルゲイの話だと、モスクワでは大野が思うほどには大きな動揺はないようだが?
アン:自分はサカタインクス時代にロシアの殆どの地方都市を巡回出張した。どの国でも同じだが。首都と地方都市は全然違うよ。モスクワでは大きな波風が立たないようにしてる分、地方都市や田舎ではもっと悲惨な状況だと思う。モスクワでは西側企業が撤退して失業しても、失業保険の給付があると思うが、田舎ではそういうものも行き届かない。

大野:そりゃヤバいね
アン:ロシアには民主主義が根付いたことは無い。かつてはツァーリの専制政治だったし、その後は共産党の独裁政治だ。強権的な政治体制が普通だと思い込んでいる。

大野:チェコはかつてソ連を盟主とした、所謂「東側ブロック」に属していたからね、
アン:我々は 1968年の事件以来、ロシア人を心底は信用していない。

大野:プラハの春と、ソ連軍によるその弾圧は鮮明に覚えているよ。数学の成績が悪かった自分は夏休みに補習を受けていて・・・1968年 8月の後半に、数学の教師が「とんでもないこことがプラハで起こったらしい」と呟いた。で、この事態を終わらせるためにはなにが必要だと思う?今のところ妥協点は無いように思えるんだが?
アン:冬だろうな。それがどちらを利するかは何とも言えないが、なんらか事態を動かすパワーにはなるだとう。

大野:西側諸国は、例えば「冬将軍」に事態を任せていいのだろうか?
アン:個人な意見だが・・・プーチンがウクライナ4州の併合を強行したりしたら、もう NATOが直接介入するしかないと思う

大野:それはまたロシアのエスカレーションに繋がらないか?
アン:しかし放置すると間違ったシグナルを送ることになるだろう。ウクライナは我々西側の民主主義や価値観を守るために多くの犠牲を出しながら戦ってくれているんだ。

【トーマス(ドイツ人・南ドイツ)】

大野:ドイツではどんな状況?毎日 tagesschau.deは覗いているので概ねの状況は理解しているつもりなんだが?戦争はどういう終わり方をするんだろう?
トマ:冬将軍が大きな影響を及ぼすだろう。エネルギーコストの高騰は間違いなく西側諸国にヒットする。つい最近、イタリアで極右政党が選挙に勝った。ウクライナなんかに構っている場合ではない!目先の生活が最優先だ・・・残念ながら、こういうことが西側のあちこちで起こるんだろうな。

大野:しかし、ウクライナは西側の民主主義や価値観を守るために戦っているんんだろう?ドイツが戦車を提供しないことに対する圧力が日増しに高まっているよね?言ってることとやってることが整合しないように思うんだが?
トマ:何事にもオモテとウラがあるんだろう

大野:日本とドイツは敗戦国だ。敗戦国が他国に武器供与をしたら周辺国に警戒される・・・これは理解できる。日本が台湾に武器供与したら中国はもちろん、韓国もガタガタいうだろう。一方ドイツは、周辺国もドイツのレパード戦車を提供してやれよ・・・と背中を押している。戦後処理の違いだろうな。しかし、今のウクライナ支援の仕方は中途半端だ。軍事的均衡を保つ程度の武器は供給しているが、決定的に領土を奪還するほどの強力な武器は与えていない・・・なんで?何故レパード戦車を提供しない?
トマ:ショルツ首相とプーチンの個別会談で何かを言われたのかも・・・

大野:ん?プーチンがショルツに「戦車を提供したらレッドラインを越える。ベルリンにミサイルを撃ち込んで廃墟にしてやる」とでも言ったということか?
トマ:いや、噂だから真偽はわからない
大野:そうか、それなら腑に落ちるな、ショルツの曖昧な態度が・・・。

大野:戦争はどういう終わり方をすると思う?
トマ:冬が事態を動かすと思う。エネルギー価格の高騰が庶民の生活を直撃するし、そもそもガスが無いと冬を越せない。この圧力が戦争を終わらせる力となるだろう。

大野:どの冬だ?今年から来年にかけての冬か?次の冬か?その次の冬か?
トマ:この冬であることを願う。

【エン(エストニア人】

フライト移動中だったのでメールで回答してくれました。

大野:ロシアのウクライナ侵攻戦争は、エストニアでどのような影響があるの?
エン:ヨーロッパ全土でエネルギーの叫びが起こり、社会性に強い影響を及ぼしていますが、エストニアも例外ではありません。戦争難民が増えています。ウクライナ人は主に子供と女性で、戦場から脱出しています。NATOの軍事保護ルールへの投資が GDPの 3%に増加したため、エストニアのロシア国境はより保護されるようになりました。

大野:今日、プーチンはウクライナの4つの州の併合を宣言するつもりです。その後、何が起こると思う?
エン:これは、ウクライナ側が国家を解放しようとし、ロシア連邦(RF)による 2014年のクリミア侵攻の前のウクライナの国境を再編成する必要があることを継続します。この住民投票は合法ではありません。なぜなら、有権者はロシア連邦の武装した軍人に脅かされながら、住民投票宣言に署名しなければならないからです。

大野:今、プーチンを止めなければ、ロシアがエストニアに侵攻するリスクはありますか?
エン:このリスクは常に存在します。過去にモロトフ・リッベントロップ協定で証明されたとおりです。つまり、NATOの第 5条は影響力を持つが、攻撃のリスクを減らすことはできません。特に現在、ロシア連邦は、ウクライナに戦争に行くために 120-130万人の兵士を動員する計画でありエストニア侵攻のリスクも増大していると思います。

大野:エストニアに住むロシア人はどうなっているのか?エストニアの人口の3分の1はロシア人だと聞いているが、彼らはどう考えているのかな?
エン:エストニアの法律と憲法を受け入れているロシア語圏の人々は全く問題ありません。残念ながら、エストニアに同化せず、ロシア連邦の報道プロパガンダの下で生活し、ロシア連邦の侵略を支持し、過去に同胞とされたウクライナの人々を殺害しているのを当然と考えるロシア人も多数います。

大野:戦争の結末をどのように考えていますか?
エン:戦争がどのように終わるかを予測することは、現時点では不可能です。なぜなら、ウクライナに新たに動員された人々による次の侵攻は、戦争がどの方向に進むかを明確にしないからです。そして、最も重要なことは、欧州本土がウクライナの努力を支援する意志と勇気を持ち、一部の EU 政府が示したようなノラクラした態度を取らないということです。このままでは、ウクライナ人、EU、米国、そしてもちろんロシア連邦にとっても、長く疲れる戦争になることでしょう。

大野:今日は皆、有難う!一刻も早く、皆で集まって美味いビールを飲みたいもんだね!

やはり「冬将軍」が事態を動かすトリガーになると皆考えているようです。この夜、プーチンはウクライナの4州の併合を宣言し、ウクライナは NATOへの加盟申請に署名しました。これまでも NATOはこの申請を受けないように先送りしてきた経緯がありますが・・・来るべき冬を前にしてどういう決断をするのでしょうか?

以下 tagesschau.deから:

ロシア併合後 NATOへの早期加盟を望むウクライナ

ステータス: 30.09.2022 17:44 Uhr

ロシアによる4つの領土の併合直後、ウクライナはNATOへの加盟の前倒しを申請したいと考えています。セレンスキー大統領は、クレムリンのプーチン大統領との交渉を否定した。

モスクワでウクライナの4つの地域の併合に関する協定に調印したことを受け、ウクライナのVolodymyr Selenskyj大統領は、自国のNATOへの早期加盟を求める申請書に署名を行った。「ウクライナのNATO加盟促進申請書に署名することで、決定的な一歩を踏み出した」と、セレンスキー氏はクレムリンでの署名式の数分後に流されたビデオで語った。

「事実上、アライアンス規格との互換性を実証済みです」と共有した。ウクライナにとって、戦場や交流のあらゆる場面で現実のものとなっているのです」。お互いを信頼し、助け合い、そして守り合う。それがアライアンスです。”

正式な条件を満たしていない

この要請がどのような結果をもたらすかは、今のところ不明です。軍事同盟に参加するためには、NATO加盟国すべての同意が必要です。一般に、NATOへの加盟は、加盟候補国が国際紛争や国境画定をめぐる紛争に巻き込まれないことが前提条件とされている。ウクライナは2月24日にロシアに侵略され、それ以来、侵略戦争から自らを守り続けています。しかも、ロシアはすでに2014年にウクライナの黒海沿岸のクリミア半島を併合している。

セレンスキー:プーチンとは交渉しない

同時にセレンスキー氏は、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ戦争終結に向けた交渉の呼びかけを拒否した。ウクライナはプーチンが権力を握っている限りロシアと交渉しない、とウクライナの国家元首は言った。ウクライナは「新大統領」が誕生すれば、ロシアと交渉することになる。

プーチンは、ウクライナ4州の併合に関する演説で、キエフにすべての敵対行為を直ちに停止するよう求めていた。ロシア大統領はウクライナ政府に対し、「交渉のテーブルに戻る」よう呼びかけた。

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