年頭のご挨拶 2019年


皆様、新年あけましておめでとうございます。平成が新元号に変わる日本としての節目の 2019年が、皆様にとって素晴らしい年になることを祈念致します。

年頭に当たり、いくつかの所感を書き記すことにいたします。

【これ・・・いいんでしょうかねえ】

最近、礼服を新調する必要があって(単に肥満で以前のが合わなくなったという事情だけですが(苦笑))久々に紳士服の量販店に足を踏み入れました。ここ暫くは自分の体型のドイツ人化により(笑)ジャケットやズボンはドイツに出張した時に買っていたので、思えばホントに久しぶりでした。

サラリーマン現役時代にはさほど違和感は感じなかったのですが・・・なんなんですかね~、このモノトーンなユニフォーム的なスーツって!ドブネズミスーツと自嘲する向きもあるようですが、もうちょっとカラフルにならないものか(笑)。かつてイタリア人に「こんな服着て、インクジェットのテキスタイルプリントなんて本気でやるつもりがあるのか?」と揶揄されたことを思い出します。

まあ、公平に申せば、ドイツでもビジネススーツの売り場はさほどカラフルではありません。やはり、それなりに落ちついた色のスーツやジャケットが並んでいます。が、それでも絶対にあり得ないのは「就活コーナー」なるものです。企業が求める新入社員候補生はかく在るべし・・・という「型に嵌める第一歩」の象徴のような気がするのは私だけでしょうか?イノベーションとか、時代の変化を語りながら、こういうことに疑問を持たず、the same procedure as last year, the same procedure as every year と毎年同じことを繰り返している日本・・・ホントにこれでいいのでしょうか?

【 昨年の振り返り:自分の活動 】

さて、会社員生活に区切りをつけ、独立して引き続き産業用インクジェットの普及促進に関わるにあたり、自分のミッションの一つとしたのは「情報格差の解消に資すること」でした。その具体的手段の一つとして、自分のサイトを開設し、そこをベースに英国人ジャーナリスト Nessan Clearyの記事を翻訳して紹介したり、海外イベントを紹介したり、自ら海外イベントに参加してレポートしたり、海外のイベントを日本に呼び込んだりしてきました。

ちなみに 2018年の海外渡航歴を集計したところ、海外に合計 99日、内欧州に 81日、中国に 15日、フィリピンに 3日という内訳でした。

主な参加イベントは Heimtextil(ドイツ:内装関連の展示会)、APPPEXPO(中国の大判プリンター展示会)、FESPA(ドイツ:大判プリンター展示会)、Formnext(ドイツ:3D プリンティング展示会)、InPrint(イタリア:産業用インクジェットの展示会)、ITMA ASIA(中国:繊維機械の展示会)、他に IGAS(日本:印刷機器総合展)や、業界違いですが PCIM(ドイツ:半導体関連のコンファレンスと展示会)など。また WTiNの第三回デジタルテキスタイルコンファレンスを国内で開催しました。この流れとは少し異なりますが、山形大学の産学連携教授を拝命し、微力ながら学界と産業界を繋ぐ役割も担うことになりました。

また、サイトの状況ですが、当初は Nessanの記事翻訳をメインコンテンツとして据える構想が、走りながらどんどんとアイデアが膨らみ、その他のコンテンツもかなり充実してきました。

これは Google Analytics というサイトの統計分析ツールによるデータの一部ですが、昨年一年間で 40,851ユーザーを獲得したことになります。一人の人が会社 PC、自宅 PCとスマホからアクセスした場合は 3ユーザーとしてカウントされるので、ざっくり 3で割ったとしても、13~14,000人もの人がアクセスしていることになります。

メールマガジンは約 2,000人のアドレスに届いている筈なので、メールが社内回覧されているか、ブラウザのお気に入りなどに登録されてアクセスされているということが想像できます。また、ここには開示しませんが、アクセス元のドメインを見ると、電子写真の大手メーカーが上位に来ています。インクジェット部門の方のみならず、電子写真部門の方や販売会社の方もインクジェットに関心を持ってアクセス頂いている状況が読み取れます。地域的に Shiojiriとか Tohmiというのも多いです(笑)

よくあるパレート分析では上位三社で80パーセントを占め、上位10社で95パーセントに達し、あとは細かいのがロングテール・・・などというのがよくあるパターンですが、当サイトに関しては上位3社(電子写真系)が占める割合はせいぜい15パーセント程度で、非常にブロードな分布をしているようです。メルマガ登録頂く方の所属会社も、思いがけない企業があり、かなり幅広い分野に浸透しつつある感触があります。

また国別では当然日本がダントツですが、米国や欧州諸国からのアクセスも意外とあります。勿論、駐在員の方が多いという想像はつきますが、ブラウザの言語設定のデータからは米国人や欧州現地人からのアクセスもあるようです。たまに、米国人の知人から(Google 翻訳で内容を読んだうえで)コメントを貰うこともあり、それはそれで想定外の嬉しい誤算です(笑)

ページビュー数(PV)は年間で 333,388という数字となりました。また記事のランキングでは IGAS関係の記事が上位で、トップは「IGAS 速報 (3)2018年7月26日 リコー・キヤノン・コニカミノルタ・小森コーポレーション」、2位は「IGAS 速報 (2)2018年7月26日 富士フイルム・富士ゼロックス」、3位は「IGAS 速報 (4)2018年7月26日 花王・東洋インキ」でした。IGAS関連以外では「コニカミノルタ:パナソニックのヘッド事業を買収」というのが上位に来ています。

いずれにせよ、何等か産業用インクジェットに関心を持たれているというインタレストグループという母集団で、当初の想定(メルマガの配信数程度)を大きく上回る広範囲な方々に読んで頂いており、メディアとしての存在感を獲得しつつあることを、運営者として実感しています。

今年はこれを自分の所見の発表の場だけではなく、これをプラットフォームとして活用頂いて、産業用インクジェットの更なる普及促進に資するような枠組みを育てていきたいと考えています。

【 昨年の振り返り:産業用インクジェットの現状について 】

さて、別途ご紹介する Nessanによる 2018年の振り返りの中で、彼は「InPrintで産業用インクジェットの浸透がホンモノになってきたことに衝撃を受けた」と書いていますが、私は少し違う感触を持っています。

「インクジェット・・・なんだか踊り場に差し掛かったのではないか?」、「なんかプレーヤーの中に手詰まり感が広がっていないか?」

実際、いくつかの有力なプレーヤーのキーマン達と話をしてみると多かれ少なかれ、そういう減速感や手詰まり感を感じている様子で「このままでは『そういえばインクジェットって技術があったなあ』と、世の中から忘れられるのではないか?」、「各分野で、取り敢えずオイシイ部分は食いつくして、これからはハードな時代に入るのでは?」という声が聞こえます。

実際には、ヘッドメーカー群の売上高合計は引き続き増加しているのでしょうし、インクメーカー群の売上高合計や生産高は増えているのでしょう。またインクジェットによるプリント成果物やサービスの売上高全体も伸びていると想像されます。ただ、セラミック分野の爆発期の様に、皆が一様に「産業用インクジェットに絡めば売れる・儲かる」といった状況ではなくなったのではないでしょうか?

これにはいろいろな説明が可能でしょうし、その対策もいろいろなアプローチが可能と考えます。また Nessanのように我々とは違うものが見えている人もいます。私は現在の状況を次の様に見ています。長年絡んできた「テキスタイルのインクジェット化」を例にとって解説します。

繊維業界には伝統的に「川上(布を作るまで)」・「川中(布を裁断し縫製し衣服に仕立てる)」・「川下(それを流通させる)」という大きな構造があり、それらは受発注を通じて繋がってはいますが、それぞれかなり異なった文化を持っています。例えば展示会などは「川上は ITMA、上海TEXなど」「川中は TexProcess、ミシンショー」などと、それぞれで独立しており、そこに集まってくる客層はかなり異なった母集団に属しています。

これまでインクジェットでテキスタイルプリンタを商品化したメーカー群、特に高速のダイレクトプリント機を指向したメーカー達は、ITMAや上海TEXなどの「川上の繊維機械展示会」に出展し、そこで「スクリーン版が要らない・デザインが自由・環境に優しい・・・」と、主として技術的な優位点を訴求し、一部の顧客には受け容れられて今日があります。そこでの競合相手は従来のスクリーン印刷技術で、インクジェットは「川上に於ける代替技術の提案」に他ならなかったのです。図で申せば、川上という範囲の中で、緑色の両矢印を拡げていく努力をしていたことになります。

しかしながら「川上・川中・川上」という伝統的な構造の中で、「その間の移転価格には歴史的な相場感」が存在し、川上の人達にはそれを覆す価格決定権が無い=デジタル化にかかるコストを加工賃価格に転嫁することができない地位にあります。従って「インクジェットを普及させるにはインクの価格を下げるしかない」という不毛な戦いを強いられることになるのです。もちろんまだまだコストダウンの余地はありますが、いつか限界が来ることが見えています。これにより普及が思いのほかスローで、現状の閉塞感の正体、すくなくともそのメジャーな要因の一つだろうと考えています。

一方で、川下や川中の構造は長らく手付かずでしたが、近年 Amazonを代表とするネットのプラットフォーマーや、ユニクロなどの小売業が一貫して製造まで踏み込む SPAという業態によって「中抜き」され崩壊の兆しが見えてきています

インクジェット布プリントの「デジタル」の側面に目を向けると、従来捺染ではデザインを決めてプリントするまで、大勢の人と複雑な手続きを経て数か月かかっていたものが、極端には今日決めれば明日にはプリントが完了している状況が可能になっています。そのことによってセーブできる川中・川下のコスト(廃棄回避・機会損失回避)は馬鹿にしたものでは無いはず・・・なのに、相変わらず川上から買いあげる布の価格(支払う加工賃)は硬直化したまま・・・川中・川上の人達はそこを考え直して、移転価格構造を変えていく必要があります

しかし、それは結局、在庫のバッファーとしての生地問屋など、自分達(少なくともその一部)が不要になる自己否定につながかねないので、迂闊に動けません。特に日本には島国独特の人間関係・シガラミがありドライに中抜きや抜け駆けが許されない自縄自縛があります。

昇華転写が急速に普及したのは、後工程が軽いという技術的簡便さもさることながら、従来の流通のシガラミとはさほど関係なくエンド顧客と直接のビジネスをすることが可能だったからです。そこには川上・川中・川下という概念はありません。昇華転写の成果物の大半が、店舗での対面販売ではなく、ネットによる取引であることからもそれは明らかです。

昇華転写プリントは、ネットというインフラの上で、従来の産業構造(特に川中・川下)を大きく中抜きできたから、シビアなインクの価格戦争を避けて広がってきたと言えます。図でいえば、縦方向の赤い矢印を延ばしたのです。

これを大規模に行おうとしているのが Amazonに代表されるプラットフォーマーです。Kornitが Amazonとしっかり結びついてそのポジションを拡大していこうとする戦略は、こういうコンテキストの中で真に理に適っていると言わざるを得ません。EFI/REGGIANIが満を持して発表したシングルパス・テキスタイル機 BOLTはどういう思想があるのか注目したいところですが、EFIのことですから何か考えてくるでしょう。

日本のデジタルテキスタイルに絡むメーカーにはその戦略があるでしょうか?それらメーカーの経営幹部層の方々、あなたの仕事は数字を指示し、その未達の分析をさせて、部下にハッパをかけることではないのです。HPがコカ・コーラやユニリーバなどの世界に名だたるブランドオーナーに直接いろいろな提案をするように、あなたの仕事は、こういう川中・川下という従来の構造を自ら壊しに行くことこそがメインの仕事なのです。ボ~ッと生きてんじゃね~よ!(爆)

テキスタイルを例にとりましたが、他の分野でも概ね同じことです。Nessanの記事にあるように UVインクから新しいインクへの試みが新しい市場を切り開くという努力は当然必要ですが、同じくらい、或いはそれ以上に重要なのは「従来のアナログ技術の上に永年成り立ってきた産業構造を壊す・中抜きする」ということが、今の漠然とした閉塞感から脱却するのに、本質的に必要なことかと考える次第です。

【 今後の方向と日本にとって必要なこと 】

「日本がデバイス(ヘッド)を作り、欧州がシステムを作って実用化し、中国がフォローし、アメリカは買収し、日本がツケを払う(笑)」という構図・・・私のミッションとして掲げましたが、これを変えたいというのが私の想いです。結局これも「従来のアナログ技術の上に永年成り立ってきた産業構造を壊す・中抜きする」ことが必須です。

このままいくとデジタル技術はプラットフォーマーと見事に結び付いて Amazonの独り勝ちになりかねない。GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)の4人勝ちになりかねない・・・知恵と実行力と資金調達力に勝るものが勝ち残るのは当然のこと!とはいいつつ、本当にそれはフェアなことなのか?そういう意味では欧州が課税の公平性やデータの取り扱いをテーマに GAFAに一定の規制をかけようとしてしているのは注目に値します。

一方で日本は、(深くは踏み込みませんが)壁紙一つにしても防炎に関する規制や、それを管理する協会への参加など「ホントに要るの、その規制?」と首をかしげたくなるものが各分野に多数存在し、シガラミで誰もそれらを壊そう・無視しようと言い出せない状況があるやに聞き及びます。

これから世界は規制と上手く折り合いをつけながらもプラットフォーマー達が既存産業構造を中抜きして壊していくでしょうし、デジタル機器のベンダー達はその流れに乗っていく、あるいはそれを加速する、局地的にはそういう大きな流れの傍流を支援していくところにビジネスチャンスが訪れるでしょう。

ファッション、インテリア、インダストリアルな装飾はすべて、トーマス・ジェファーソン大学のサーフェシングイメージング部門に包含されています

分野としてはパッケージ分野、そしてテキスタイルやウォールカバリング(日本では壁紙というより「壁装」という方が適切か?)などを包含した内装分野にチャンスが拡がっていくことでしょう。先般ご紹介した Ujiie教授が属する Thomas Jefferson大学の「Surface Imaging」という概念は注目に値し、FESPAもそこに着目して流れを創り出そうとしています。繰り返しになりますが、これも「既存の産業構造を壊す・再編する」こととセットであることは言うまでもありません。

日本でそれが起こるでしょうか?起こしたいとは思いますが、皆で同じ色のスーツを着て、なんとかしなければとか口走りつつ、周りを見回して、結局何もしない・起こらない・起こさない・・・そんな日本なら見捨てるしかありません。そこを相手にして無駄な時間を消費するくらいなら、世界で勝負しましょうよ!

Bundesarchiv Bild 183-1989-1007-402, Berlin, 40. Jahrestag DDR-Gründung, Ehrengäste.jpg
Von Bundesarchiv, Bild 183-1989-1007-402 / Franke, Klaus / CC-BY-SA, CC BY-SA 3.0 de, Link

今年はベルリンの壁が崩壊してから30年が経ちます。そうあれは平成元年、1989年11月の出来事だったのです。壁が崩壊した11月9日の約一か月前の 10月7日、旧東独は建国40周年記念式典を執り行い、東独のホーネッカー書記長は「社会主義は永遠に不滅だ」と高らかに宣言したのです。

実はその前日の10月6日、ソ連のゴルバチョフ書記長はホーネッカーと二人だけで会談し「Wer zu spät kommt,den bestraft das Leben:遅すぎた者は、人生に罰せられる」と言ったとされ(実際には違う言葉を使ったようですが)「そろそろ時代後れになったものは変えていかないと・・・手遅れになるよ」と諭したと言われています。そしてその一か月後に壁が崩壊するのです。

あの偉大なゴルバチョフを気取るつもりは毛頭ありませんが、時代の流れを読み違えないようにし、そこで自分が果たすべき役割をもう一度見直すことは、あらゆる階層にとって、特に組織を率いる経営幹部層にとって、究極は社長にとって大変重要なことかと思う次第です。

この一年の皆様のご健勝とご活躍を祈念致します。

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